東京地方裁判所 平成8年(行ウ)263号 判決 1998年1月27日
主文
一 原告の請求をいずれも棄却する。
二 訴訟費用は原告の負担とする。
理由
【事実及び理由】
第一 原告の請求
一 被告が平成八年三月六日付けで原告に対してした別紙物件目録一及び二記載の土地に係る不動産取得税の賦課決定のうち、課税標準額五億八九〇三万九〇〇〇円、税額二三五六万一五〇〇円を超える部分を取り消す。
二 被告が平成八年三月六日付けで原告に対してした別紙物件目録三及び四記載の土地に係る不動産取得税の賦課決定のうち、課税標準額五億三六五八万円、税額二一四六万三二〇〇円を超える部分を取り消す。
第二 事案の概要
本件は、東京都江東区新木場三丁目に所在する四筆の土地を取得して、被告から不動産取得税の賦課決定を受けた原告が、右各土地の固定資産課税台帳の登録価格が適正な時価を示していなかったにもかかわらず、被告が右登録価格に基づき課税標準額を定めたのは、地方税法(以下「法」という。)七三条の二一第一項の解釈適用を誤るものであるとして、被告に対し、右各賦課決定のうち、原告が右各土地の適正な時価であると考える金額に基づき算出した課税標準額及び税額を超える部分の取消しを求めている事案である。
一 関係法令の定め
1 法によれば、不動産取得税の課税標準は、不動産を取得した時における不動産の価格とされ(法七三条の一三第一項)、右の価格とは、適正な時価をいうものとされているが(法七三条五号)、固定資産課税台帳に固定資産の価格が登録されている不動産については、原則として、当該登録価格(以下、単に「登録価格」という場合は、固定資産課税台帳に登録された価格をいうものとする。)により当該不動産に係る不動産取得税の課税標準となるべき価格を決定するものとされ(法七三条の二一第一項本文)、例外的に、当該不動産について、増築、改築、損壊、地目の変換その他特別の事情がある場合において、当該登録価格により難いときは、都道府県知事が自治大臣の定める固定資産評価基準によって、当該不動産に係る不動産取得税の課税標準となるべき価格を決定するものとされている(法七三条の二一第一項ただし書、同条二項、一条二項)。
2 なお、法附則一一条の五第一項(平成八年法律第一二号による改正前のもの。以下同じ。)は、平成六年一月一日から平成八年一二月三一日までの間に宅地評価土地(宅地及び宅地比準土地をいう。)を取得した場合には、当該取得に対して課する不動産取得税の課税標準は、法七三条の一三第一項の規定にかかわらず、当該土地の価格の三分の二(当該取得が平成六年一月一日から同年一二月三一日までの間に行われた場合にあっては、二分の一)の額とする旨規定し、宅地評価土地の取得に対して課する不動産取得税の課税標準の特例を定めている。
二 前提となる事実
(以下の事実のうち、証拠等を掲記したもの以外は、当事者間に争いがない事実である。)
1 不動産の取得
原告は、平成七年八月一日、有限会社大澄製材所から、別紙物件目録一及び二記載の土地を買い受けてこれを取得し、さらに、同年九月一三日、平久製材株式会社から、同目録三及び四記載の土地を買い受けてこれを取得した(以下、これらの土地については、同目録記載の番号に従い、「本件土地一」、「本件土地二」、「本件土地三」、「本件土地四」といい、これらの土地を併せて「本件各土地」という。)。
2 不動産取得税賦課決定
(一) 被告は、平成八年三月六日付けで、原告に対し、本件土地一及び本件土地二の取得について、課税標準額一〇億三二八九万八〇〇〇円、税額四一三一万五九〇〇円とする不動産取得税賦課決定を、本件土地三及び本件土地四の取得について、課税標準額九億四〇九〇万九〇〇〇円、税額三七六三万六三〇〇円とする不動産取得税賦課決定(以下、これらの賦課決定を「本件各賦課決定」という。)をそれぞれ行った(なお、東京都においては、法三条の二、東京都都税条例四条の三第一項に基づき、徴収金の賦課徴収に関する事項は、一定の事項を除き、知事から都税の納税地所管の都税事務所長又は支庁長に委任されている。)。
(二) 本件各賦課決定の課税標準額及び税額の算定根拠は次のとおりである。
(1) 原告が本件各土地を取得した時の本件各土地の価格は、次のとおり固定資産課税台帳に登録されていた(右の各価格は、平成七年度の登録価格であり、基準年度である平成六年度の登録価格が据え置かれたものである。以下、この各登録価格を「本件各登録価格」という。)。
ア 本件土地一
一三億八八三六万七七八〇円
イ 本件土地二
一億六〇九七万九七〇〇円
ウ 本件土地三
一二億五〇三八万五一八〇円
エ 本件土地四
一億六〇九七万九七〇〇円
(2) 被告は、法七三条の一三第一項及び七三条の二一第一項の規定に基づき、本件各登録価格をもって本件各土地に係る不動産取得税の課税標準となるべき価格と決定した上、法附則一一条の五第一項の課税標準の特例を適用し、右の各価格の三分の二の額(ただし、法二〇条の四の二第一項により一〇〇〇円未満切捨て)を課税標準として、これに税率四パーセントを乗じて、本件各土地の取得に対して課する税額(ただし、法二〇条の四の二第三項により一〇〇円未満切捨て)を算出し、前記(一)記載のとおり、本件各賦課決定をしたものである。
3 審査請求
原告は、本件各賦課決定を不服として、平成八年四月二六日、東京都知事に対し、審査請求をしたが、同知事は、同年八月二二日付けで、右審査請求をいずれも棄却する旨の裁決をした。
三 争点及び争点に関する当事者の主張
本件の争点は、本件各土地に係る不動産取得税の課税標準となるべき価格をいくらとすべきかであり、具体的には、本件各登録価格の決定に重大かつ明白な瑕疵が存在するか否か、及び本件が法七三条の二一第一項ただし書にいう「当該固定資産の価格により難いとき」に該当するか否かが問題となる。
右争点に関する当事者の主張は、次のとおりである。
(原告の主張)
1 本件各登録価格によれば、本件各土地の一平方メートル当たりの価格はいずれも六五万七〇六〇円となるが、この価格は、原告が当時既に所有していた東京都江東区東砂一丁目三六番一の宅地三六八五・三七平方メートル及び同所五四番一の宅地二四二・〇一平方メートル(以下、この二筆の土地を併せて「東砂一丁目の土地」という。)の平成七年度の登録価格(一平方メートル当たり四五万六九六〇円)と比較して、不当に高額である。
すなわち、本件各土地と東砂一丁目の土地の街路状況、最寄り駅からの距離、周辺環境、行政的規制の各条件を比較すると、別表記載のとおり、本件各土地の一平方メートル当たりの価格は、東砂一丁目の土地の一平方メートル当たりの価格よりも少なくとも一八パーセントは下回るはずである。
しかるに、本件各登録価格は、一平方メートル当たりで比較すると、東砂一丁目の土地の登録価格よりも逆に高額になっているのである。
2 不動産取得税の賦課に際して、固定資産課税台帳の登録価格をその課税標準とすることとしたのは、固定資産税と不動産取得税における不動産の評価の統一と徴税事務の簡素化を図るのが目的である。
しかしながら、本件の場合、右1記載のとおり、本件各登録価格は、東砂一丁目の登録価格と比較して明らかに高額にすぎ、不公平なものとなっているのである。本件のように、登録価格の決定に重大かつ明白な瑕疵があり、その価格自体が不適正なものとなっている場合には、当該不動産の所有者が不服申立てを行っていれば、当然に是正されていたはずであり、このような場合は、固定資産課税台帳に登録された価格をそのまま不動産取得税の課税標準とする合理的根拠を欠くものである。
したがって、本件各土地に係る不動産取得税の課税標準となるべき不動産の価格を定めるに当たっては、法七三条の二一第一項ただし書にいう当該固定資産の価格により難い特別の事情を固定資産税の賦課期日後に生じた事情に限ることなく、右ただし書を適用して、本件登録価格によらずに、適正な価格を定めるべきである。
3 仮に法七三条の二一第一項ただし書の特別の事情を固定資産税の賦課期日後に生じた事情に限るとしても、次のような地価の下落を考えれば、本件は、右ただし書にいう「特別の事情がある場合において当該固定資産の価格により難いとき」に該当するというべきである。
すなわち、本件各土地については、平成六年度(基準年度)の固定資産税の賦課期日である平成六年一月一日における価格が一平方メートル当たり六五万七〇六〇円とされているが、平成九年度の評価替えにより、その登録価格は、一挙にその約三分の一に当たる一平方メートル当たり二二万五五二五円に低落した。この間の地価の下落を、本件各土地の相続税の路線価の変動によってみてみると、平成六年一月一日時点の路線価は一平方メートル当たり六三万円、平成七年一月一日時点の路線価は一平方メートル当たり四七万円、平成八年一月一日時点の路線価は一平方メートル当たり三一万円となっており、毎年前年比で三〇パーセント前後の割合で下落している。原告が本件各土地を取得したのは、平成七年八月及び同年九月であるが、平成三年ころから不動産価格の下落傾向が続き、平成五年ころからは大幅な下落が続いていた。このような状況の中では、原告が本件各土地を取得した時点でのその価格と平成六年一月一日現在の価格として決定された本件各登録価格との間に乖離が生じていたことは明白であり、かつ、これが固定資産税の賦課期日後に生じた特別の事情によるものであることも明らかである。
したがって、本件は、正に法七三条の二一第一項ただし書にいう「特別の事情がある場合において当該固定資産の価格により難いとき」に該当するというべきである。
4 以上のとおり、本件については、登録価格により難い特別の事情があるのであるから、本件各土地の取得時における適正な時価に基づいて不動産取得税の課税標準額及び税額を決定すべきところ、本件各土地の一平方メートル当たりの価格は、東砂一丁目の土地の一平方メートル当たりの価格を基準とすると、少なくともその一八パーセントを減額した三七万四七〇七円とすべきであり、これを前提に本件各土地の価格を求めると、本件土地一の価格は七億九一七五万五八九一円、本件土地二の価格は九一八〇万三二一五円、本件土地三の価格は七億一三〇六万七四二一円、本件土地四の価格は九一八〇万三二一五円となる。そして、法附則一一条の五第一項の課税標準の特例を適用して、本件各土地の取得に係る不動産取得税の課税標準額及び税額を計算すると、本件土地一及び本件土地二の取得については、課税標準額五億八九〇三万九〇〇〇円、税額二三五六万一五〇〇円となり、本件土地三及び本件土地四の取得については、課税標準額五億三六五八万円、税額二一四六万三二〇〇円となるので、本件各賦課決定のうち右各金額を超える部分は、違法な賦課決定として取り消されるべきである。
(被告の主張)
法七三条の二一第一項は、固定資産課税台帳に固定資産の価格が登録されている不動産については、同項ただし書の場合を除いて、当該価格により当該不動産に係る不動産取得税の課税標準となるべき価格を決定するものとしている。そして、同項ただし書の規定する固定資産課税台帳に登録されている価格により難い特別な事情とは、固定資産税の賦課期日以後不動産の取得の日までに地目の変換等があった場合をいうが、本件各土地については、右のような特別の事情は認められないのであるから、本件各土地の取得に係る不動産取得税の課税標準となるべき価格は、本件各登録価格に基づいて決定すべきであり、本件各賦課決定に何ら違法な点が存しないことは明らかである。
第三 当裁判所の判断
一 法七三条の二一第一項ただし書にいう「当該固定資産の価格により難いとき」の意義等について
1 前記第二の一1記載のとおり、法が、固定資産課税台帳に固定資産の価格が登録されている不動産については、原則として、当該価格により当該不動産の取得に係る不動産取得税の課税標準となるべき価格を決定するものとした趣旨は、固定資産税の課税対象となる土地及び家屋の範囲は、発電所及び変電所が家屋に含まれることを除けば、不動産取得税の課税対象となる不動産と同一であり(法七三条一号ないし三号、三四一条二号、三号)、その価格も同じく適正な時価をいうものとされていること(法七三条五号、三四一条五号)などから、両税における不動産の評価の統一と徴税事務の簡素化を図ったものと解される。
2 すなわち、固定資産税の課税標準は、賦課期日における固定資産の価格で、固定資産課税台帳に登録されたものとされているが(法三四九条)、法は、固定資産課税台帳に登録される固定資産の価格が適正な時価であるようにするため、市町村長等が行う固定資産の評価及び価格の決定は自治大臣により定められた評価の基準並びに評価の実施の方法及び手続(固定資産評価基準)に基づいて行うものとし(法三八八条以下参照)、決定された価格については固定資産税の納税者に不服申立ての機会を与える(法四三二条以下参照)などの規定を設け、さらに、このようにして固定資産課税台帳に登録された基準年度の価格についても、第二年度、第三年度において、「地目の変換、家屋の改築又は損壊その他これらに類する特別の事情」等が生じたため、基準年度ないし第二年度の価格によることが不適当、不均衡となる場合には、これによらず当該不動産に類似する不動産の基準年度の価格に比準する価格によることとする(法三四九条二項、三項参照)などの規定を設けている。
そして、右のようにして評価、決定され、固定資産課税台帳に登録された価格は、基準年度の固定資産税の賦課期日における不動産の時価を示すものというべきであるが、不動産取得税の課税上、不動産の評価の統一性を確保し、また、極めて多数に上る不動産の取引等ごとに当該不動産の価格を評価、決定することの煩雑さを回避し、簡易で効率的な徴税を図るという見地からすれば、右登録価格を当該不動産の取得時の時価として取り扱うことは課税技術的に合理性があり、それによって税負担の公平を損なうなどの支障が生ずることは通常は考えられないことから、法は、都道府県知事が不動産取得税の課税標準である不動産の価格を決定するについては、固定資産課税台帳に当該不動産の価格が登録されている場合には、原則として、右登録価格によりこれを決定するものとしているものと解される。
3 右の法の趣旨に照らすと、法七三条の二一第一項ただし書にいう「当該固定資産の価格により難いとき」とは、当該不動産につき、固定資産税の賦課期日後に増築、改築、損壊、地目の変換その他特別な事情が生じ、その結果、右登録価格が当該不動産の適正な時価を示しているものとみて、右登録価格を不動産取得税の課税標準とすることが公平な税負担という観点からみて看過できない程度に不合理と認められる事態に至った場合をいうものと解するのが相当である(最高裁平成四年(行ツ)第一九六号平成六年四月二一日第一小法廷判決・判例時報一四九九号五九頁参照)。
4 法七三条の二一第一項ただし書の趣旨が前示のとおりであるとすると、右ただし書にいう「特別の事情」には当該不動産自体に物理的変動があった場合はもちろん、都市的諸施設の整備など当該不動産の価格に直接影響を与えるような周辺環境の著しい変動があった場合が含まれるほか、賦課期日後に生じた地価の著しい下落といった事情も含まれ得るものと解されるが、地価の下落により当該不動産の取得時の時価が登録価格を下回ったというだけでは、右ただし書にいう「当該固定資産の価格により難いとき」に該当するということはできず(最高裁昭和四六年(行ツ)第九号昭和五一年三月二六日第二小法廷判決・判例時報八一二号四八頁参照)、賦課期日後の地価の下落により、当該不動産の取得時における時価とその登録価格に乖離が生じ、それが公平な税負担の観点からみて看過できない程度に達した場合に初めて、右ただし書にいう「当該固定資産の価格により難いとき」に該当することになるものというべきである。
5 また、前示のとおり、法七三条の二一第一項ただし書にいう「特別の事情」は、固定資産税の賦課期日後に生じた事由に限られるべきであるが、右にいう「固定資産税の賦課期日」とは、当該不動産の評価が行われ、その価格が決定された年度の固定資産税の賦課期日をいうものと解するのが相当である。けだし、法によれば、固定資産のうち不動産については、税負担の安定と行政事務の簡素化を図るため、原則として、三年ごとにその評価を行い(法四〇九条)、価格を決定した上(法四一〇条)、固定資産課税台帳にその価格を登録するものとされ(法四一一条一項)、第二年度及び第三年度については、原則として、基準年度の登録価格をもってその登録価格とみなしているのであって(同条二項)、このような固定資産の評価及び価格決定の仕組みに照らせば、法七三条の二一第一項ただし書に該当する事態が生じたか否かについては、当該登録価格が決定された年度の固定資産税の賦課期日後の事由を考慮すべきものとするのが、最も合理的であると考えられるからである。
6 なお、これまで説示してきたところは、当該不動産に係る固定資産課税台帳の登録価格の決定自体に重大かつ明白な瑕疵がない場合を前提とするものである。後述するとおり、当該登録価格の決定自体に当初から重大かつ明白な瑕疵があり、これを無効とすべき場合には、法七三条の二一第一項ただし書の規定をまつまでもなく、当該登録価格により当該不動産に係る不動産取得税の課税標準となるべき価格を決定することは許されないものというべきであるが、当該登録価格が基準年度の固定資産税の賦課期日における当該不動産の適正な時価を上回っているというだけでは、直ちに当該登録価格の決定が無効となるものではないというべきである。
二 本件各土地に係る不動産取得税の課税標準となるべき価格について
1 原告が本件各土地を取得した時に本件各土地の価格(本件各登録価格)が固定資産課税台帳に登録されていたことは当事者間に争いがないところ、原告は、前記第二の三(原告の主張)1、2記載のとおり、本件各登録価格の決定自体に重大かつ明白な瑕疵が存在する旨主張する。
しかしながら、原告の右主張は採用することができない。その理由は次のとおりである。
法四一〇条等に基づき市町村長等が行う固定資産の価格の決定は行政処分としての性質を有するものであるが、行政処分が無効であるというためには、単に処分に瑕疵があるというだけでは足りず、その瑕疵が重大かつ明白なものでなければならない。そして、行政処分の瑕疵が明白であるというためには、当該行政処分に係る処分庁の認定に誤りのあることが、権限ある機関の判断をまつまでもなく、何人の判断によっても、ほぼ同一の結論に到達し得る程度に明らかであることを要するというべきである。
しかるに、原告が本件各登録価格の決定の瑕疵として主張するところは、要するに、本件各登録価格と原告が他に所有する東砂一丁目の土地の登録価格とが均衡を失しているというにすぎず、原告の主張する瑕疵が、権限ある機関の判断をまつまでもなく、何人の判断によっても、ほぼ同一の結論に到達し得る程度に明らかであるということは到底できないものである。
なお、原告は、平成七年一月一日現在の東砂一丁目の土地の本件各土地の価格差について、前者が後者よりも一八ないし二三パーセント程度優れている旨の不動産鑑定士作成の意見書を証拠として提出しているが、本件各登録価格は基準年度である平成六年度の固定資産税の賦課期日である平成六年一月一日における本件各土地の価格として決定されているのであるから、右決定に瑕疵があるか否かを判断する上では、右意見書は有効適切な証拠資料とはいえないし、仮に平成六年一月一日現在における東砂一丁目の土地と本件各土地の価格差について、右意見書のいうところが当てはまるとしても、それによって直ちに本件各登録価格の決定に権限ある機関の判断をまつまでもなく、何人の判断によっても、ほぼ同一の結論に到達し得る程度に明らかな瑕疵があるといえるものではない。
2 そこで、次に本件が法七三条の二一第一項ただし書にいう「当該固定資産の価格により難いとき」、すなわち、本件各土地につき、固定資産税の賦課期日後に増築、改築、損壊、地目の変換その他特別な事情が生じ、その結果、本件各登録価格が本件各土地の適正な時価を示しているものとみて、本件各登録価格を不動産取得税の課税標準とすることが公平な税負担という観点からみて看過できない程度に不合理と認められる事態に至った場合に該当するか否かについて検討する。
この点に関し、原告は、前記第二の三(原告の主張)3記載のとおり、平成六年一月一日以後の地価の下落をもって、法七三条の二一第一項ただし書にいう当該固定資産の価格により難い特別の事情に該当する旨主張する。
しかしながら、本件各土地の平成九年度の固定資産税の登録価格及び平成六年度ないし平成八年度の相続税の路線価が原告の主張のとおりであったとしても、その程度の地価の下落があったことをもって、登録価格により難い特別の事情といえるかについては、それ自体問題となり得るところである。しかも、本件各土地に係る不動産取得税については、法附則一一条の五第一項の定める不動産取得税の課税標準の特例が適用になるのであり、右特例により課税標準額が減額される割合と右の地価の下落状況から推認される平成六年一月一日から本件各土地の取得時までの本件各土地の時価の下落の程度(毎年前年比で三〇パーセント前後の割合)を比較すれば、本件各土地については、登録価格と時価との乖離が公平な税負担の観点から看過し難い程度に達していると認めることはできない。
そして、他に本件各土地に係る不動産取得税の課税標準を決定するについて、本件各登録価格により難い特別の事情が存在すると認めるに足りる証拠はない。
3 そうすると、被告が法七三条の二一第一項本文により、本件各登録価格をもって本件各土地に係る不動産取得税の課税標準となるべき価格と決定し、法附則一一条の五第一項に従って課税標準額を算出して行った本件各賦課決定は適法というべきである。
第四 結論
よって、原告の本件請求はいずれも理由がないから、これを棄却することとし、訴訟費用の負担について、行政事件訴訟法七条、民事訴訟法六一条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 青柳 馨 裁判官 増田 稔 裁判官 篠田賢治)